本当に強いヒト - ケース1・新米召喚士の場合
  コレは、ザナルカンドへの旅を続ける一行のある日の出来事。

「……終わりっ!」
  愛用のフラタニティでそこら辺から湧いて来た雑魚モンスターに止めを刺すティーダ。技が見事に決まり、思わずガッツポーズを決める。
  目の前の青年にとって、雑魚を相手に負けるどころか、苦戦することすらもありえないことだ。それを踏まえても今のフィニッシュはあまりにも見事だった。思わず傍に居たユウナが手を叩く。
「すごいね、さすがザナルカンド・エイブスのエースだねっ」
「いや、それ関係ないッス。大体、雑魚じゃん」
  と、言いながら手を振りつつも、ティーダは嬉しさと恥ずかしさが入り混じった顔を浮かべていた。
「でも、やっぱりすごいよ。わたしは……召還獣の手を借りないと、なにも出来ないから」
  そう言って悲しげに俯くユウナ。どう慰めようか、ほんの一瞬迷いつつも、ティーダは出来る限りの明るい笑みを浮かべ、彼女の肩を優しく叩いた。
「ユウナも訓練すれば何とかできるようになるッスよ!」
「……うん」
「オイ、置いてかれるぞ」
  彼らの前方を行くワッカに声を掛けられ、いつの間にか他のガード達が歩き出していたことに気付くと、二人も再び雪原を歩き出す。

  ――召還獣の手を借りなきゃなにも出来ない、か。でも、やっぱユウナってなんか自分で戦闘するタイプじゃないよな。
  そんな事を思いながら、ティーダは隣で歩みを進める少女を見やる。
  召喚士であるユウナが行なってきた修行は召喚獣を使役する能力を向上させ、それに付随して魔法も使いこなすというものだ。故に彼女自身の戦闘力は決して高くはない。それを補うための、そして彼女を守るために存在するのがティーダ達ガードなのだ。改めて考えるまでもない。
   それでも雑魚モンスターのように、わざわざ召喚獣に頼るまでもないような敵の相手――つまるところ、彼女の露払いをガード達が担う、という現状に彼女は満足していないのだろう。適材適所、それに基づいた役割分担、それ故の彼女の立ち位置。それを全て理解することは出来ていても、完全に納得はしていないのだろう。
  だが、そうして考えている内に、ティーダは妙な事に気が付いた。
  ――待てよ、前にユウナがアルベドに捕まってた時、オレ達が助けに行ったけど、その時ユウナの周りにいたアルベドって、ユウナが気絶させたんだよな?
  いくらなんでも召還獣で人を攻撃するわけにはいかないし、どうやって戦ったんだ?
  ティーダが思考のループに入ってしまったと思えば、急に前を歩いていたワッカが立ち止まり、危うくぶつかりそうになった。文句の一つでも言おうかと思いきや、ふと周りを見回すといつの間にか目的地であるマカラーニャ寺院の近くまで来ていたようだ。
  前方にはシーモアの従者であるトワメルの姿が見えた。
「ユウナ様、お迎えにあがりました」
  その言葉を合図に、ユウナはごく自然に前に出る。話し出したトワメルは絶えず恭しい態度でユウナに接しており、ユウナもそれに答えるかのごとく、丁寧な返答を続けていた。そうして数分間会話をしていたが、やがてトワメルはガード達を残してユウナだけを寺院へと連れて行った。曰く、グアドのしきたりで召喚士のみがこの先へ行けるということだそうだ。
  僅かに不安そうな表情を見せつつも、寺院へ向かうユウナ達を見送るティーダ。口笛を吹き、ユウナに合図するが、その心境は複雑だった。
  ――コレで、ユウナはシーモアと結婚するコトになるんだよな……。
  『ガードは召還士の味方』
  アーロンが言った事は、オレだって正しいと思う。
  けど……。
  再び思考のループに入ったティーダを現実に引き戻したのは、リュックの叫びだった。
「あ〜っ!」
  彼女の視線を辿ると、そこにはアルベド族に囲まれたユウナ達が。
  慌てて掛け出すガード達。それを見たユウナも、トワメルの手を振り払い仲間の元へと駆ける。
  モヒカン頭のアルベド族が、何やらティーダ達には理解不能の言葉で叫ぶが、唯一理解出来るリュックは顔色を変えた。
「え〜っ!?」
「通訳!」
  顔中に疑問符を浮かべたティーダにリュックは慌てた様子で叫ぶ。
「魔法と召還獣を封印しちゃうって!」
  そう言った矢先、モヒカン頭の背後にある機械兵器は光を帯びた小型機を彼らの元へ飛ばしてきた。
  警戒して距離を取ろうとしたが時は既に遅し、ルールーとユウナは本当に魔法を使えなくなってしまった。召還獣に対しても同様で、ユウナがいくら杖を振ろうとも召還獣は現れない。
  焦りの表情を浮かべる二人を見やりつつ、ワッカは意を決して言った。
「仕方ねえ! 俺達でコイツを倒そう!」
  その声に頷くティーダとアーロン。武器を手に勢いをつけて目の前の機械兵器へと斬りかかる。
「スパイラルカット!」
「流星!」
  次々と得意技を繰り出すティーダとアーロンだったが、彼らの武器は兵器の固い装甲とはどうも相性が悪い。雷の属性付与でもあれば幾分かはマシだったかもしれないが、運悪く該当武器は持ち合わせていなかった。
「ぐわっ……!」
  アルベドガンナーの砲弾をモロに食らい吹っ飛ぶティーダ。今の攻撃で体力も残り僅かになってしまった。
  しかし、こういう時に限ってポーション系アイテムは切らしており、おまけにユウナの白魔法も使えない。
  必死に立ち上がり、なおも攻撃を加えようと構えるティーダ。だが、その表情は苦しそうだ。
「キマリと代われ! ユウナは、キマリが護る!」
  見かねたキマリが叫ぶと、ティーダは彼の元へと走る。が、しかし、ティーダの代わりに戦場へ向かったのは、キマリではなかった。
「この機械は、私が倒します!」
  そう、ユウナがアーロン、ワッカと共にアルベドガンナーと対峙していた。
「ユウナ!」
「召還獣は使えないんだぞ!」
  キマリとティーダが叫ぶが、ユウナはそれを無視して、杖を構える。
  そして、
「えいっ!」
  と、声を挙げて振り下ろす。すると、誰もが予想しなかった事が起こった。
  あのアーロンの大剣ですら大したダメージを与えられなかったアルベドガンナーが、今のユウナの一撃で爆発してしまったのだ。
『な、何ぃ!?』
  相手のアルベド族は勿論のこと、普段は寡黙なキマリや、冷静なアーロンですら呆気に取られた表情でアルベドガンナーが爆発する光景を見ていた。
  そして、自分の兵器を壊され怒りに慄くモヒカン頭のアルベド族の元へは、別のアルベド族が血相を変えてやってきた。全身をガタガタと震わせながら何やらユウナを指さしている様子に、ティーダ達は困惑した表情を浮かべていたが、一通り仲間の話を聞き終えたらしいモヒカン頭は、またもアルベド語で何やら叫んだかと思えば、その場を慌てて去っていった。
  そんなアルベド達の様子をのほほんとした顔で見ていたユウナは、
「あら……勝っちゃいましたね……」
  と言いながら微笑み、トワメルの方へと戻る。
「ゆ、ユウナ様……よくぞご無事で……」
  心底ホッとした表情でユウナに話しかけるトワメル。
「お気遣い頂き、ありがとうございます。さあ、シーモア老師がお待ちかねです」
「はい」
  二人は何事も無かったかのように、再び寺院へと向かう。
  残されたガード達は、全員異口同音に呟いた。
『ユウナって……』
  ――やっぱ、あの時ユウナは自分で気絶させたんだな、あのアルベド達……。
  ティーダは、ある意味召還獣より強いかもしれないユウナの攻撃で気絶させられてしまったアルベド族が、つくづく気の毒になってしまったのであった。

おわる。


ネタ元はは前略こと文月嬢。昔々サイトに置いてらっしゃったユウナの絵をベースに話が書きたい、という衝動に駆られた結果がコレ。
ゲーム中じゃ現実味無さそうに見えて、実際に前略がデータ持ってきてうちのPS2で実演してくれた時は流石に爆笑。
(2012/09・改稿)